2006年01月31日
『結晶する魂』
深い闇に包まれた夜の森の中で、忌わしき惨劇に見舞われた美しい少女ディー。それ以来、彼女の幼い心は、夜ごと訪れる悪夢に苛まれ続けていた。どこからか聞こえてくる"声"が「父親を殺せ」と囁くのだ。愛する娘の異変に気づいたブリーマーは、彼女の精神を支配しようとする邪悪な力と対決すべく、ついに銃を握ったが…。P・K・ディックの絶賛を浴びて登場した鬼才が、圧倒的な筆力で描破する恐怖と異常世界。
…背の紹介文は、内容の良さを表してないなぁ(笑)。
『ブレードランナー2』『スタートレック ディープスペースナイン』『ドクター・アダー』といった作品を持つジーターの筆による、幻想ホラー小説。
淡々として冷酷ささえも感じさせる文体で描かれる世界には、勇敢なヒーロー・ヒロインはおらず、人間の弱さがあぶり出される。ブリーマーは物事に悩み、傷つき、怒り、逃げる。義姉のキャロルは言う。「――愛している人間に何かが起これば分かるのが当然でしょ。たぶん、あなたにはそういうことが分からないんでしょうね。あなたは自分の人生を自分だけの世界に閉じこめてきたからよ。自分独りで勝手に何かをやって、自分独りでどこかへ行って……はるばるイギリスまで、あなたが愛してくれてると思っている人たちを置きざりにして。」鈍感だった彼にこの言葉は届いたのだろうか。
『ドクター・アダー』で描かれた人体(死体)描写は単に趣味の悪さだけを見せているような未熟さがあったが、本書のその描写はまさにそこで登場するのが必然であり、極めて精緻で、我々にとっても身近な食材さえもぞっとしたものに見える感覚を呼び醒す。金銭・名誉・愛情・生殖――そういった生きる「意味」なく(死の恐怖でさえもない)、原始的・本能的な「生き続ける」ために「生きる」、かつて人だったものが、そういった描写された背景とのコントラストによってますます浮かび上がってくる。
なお、冒頭に引用したハヤカワ文庫の紹介文には不満があるが、原題『SOUL EATER』に、「魂を食らう者」ではなく、あえて『結晶する魂』という邦題を創造したセンスには素直に脱帽したい。
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