2009年08月31日
TeXユーザの集い2009 参加報告(1)
本日8月29日に、東京大学生産研究所コンベンションホールにて、TeXのコアユーザ/開発者によるカンファレンス「TeXユーザの集い2009」が開催された。重鎮によるディープな話、現在最前線で日本語TeXコアの開発を進めている方たちの報告、新進気鋭の技術やテクニックの発表、と駆け足ながらも極めて密度の濃いイベントとなり、喝采で幕を閉じた。自身のメモも断片化ぎみでまとめにくい。近日に論文資料集が発表されるようなので、詳細についてはそちらを参照のこと。
休日ということで正門しか開いていないという事前情報を基に、最寄り駅である東北沢を使ってみた。本当に何もない駅…。しかも微妙に地図を読み違えて代々木上原まで歩いてしまう羽目に。トホホ。EZナビもわかりにくくて逆ギレしてみる。やっぱiPhoneで大きくGoogle Maps出したいです、という気運が高まってきた。9時に着くつもりだったけれども、会場入りは結局9時15分くらい。時計台が渋い。
本カンファレンスの実行委員長であり、国内のTeXユーザなら誰もがお世話になっている奥村先生から開会のご挨拶。生で拝見できて感激極まる、ありがたやありがたや。後でミーハーに名刺交換もさせていただいた。日本においてのTeXのイベントは久々であり、去年の韓国で開催されたイベントに刺激を受けて今回日本で開催の運びに。可能なら各年で開催し、ジャーナルも出していきたいとのこと。
トップバッターの発表は、「TeX挿図用CASパッケージKETpicの開発と今後」東邦大学の高遠さん。
MapleやMathematica、ScilabといったCASソフトウェアで生成したプロットデータからTeXのドロー描画のTpicに変換するというもの。EPSよりも小さくて修正も容易。
高遠先生はもともと高専の教師をされており、教科書作成の過程でWinTpic、Maple+emathPといったマクロを使ってきたものの、前者はグラフが描画できない、後者は破線処理やハッチングのバグなどいろいろ問題があって、結局Tpicのコードを直接出力するためのKETpicの開発に着手。
CAS対応はMapleに始まって、Mathematica、Maximaと続き、Scilab、MATLABときて現在に至る。
比較的簡単なコマンドでTpicを生成することができ、閉じた自由曲線を描いたり、空間曲線では自動で奥行きに基づく隠れ線処理をしてくれたりする(このあたりはCASがやってくれる)。曲線は滑らか。
挿図による表現があることで、学習者はそれを観察して発見する、というアプローチを採ることができる。
「TeX描画のためのCASマクロパッケージKETpic用GUIの開発」名古屋大学の中村さん。
先のKETpicを全面的なテキスト指定ではなく、もう少しマウスなども併用してポチポチとグラフィカルに操作したり、プレビューしたりとできるようなツールを、MapleのMapletパッケージのGUIコンポーネントを使って実装した。
若干説明が拙かったのと、デモで不手際などがあり、不完全燃焼な発表に終わってしまった感。
MapleのGUIのはOS非依存で動く「はず」だけども、今のところはMac上でしか検証していないらしい。
「独自数式入力システムの開発とTeXのWebアプリケーション化」東京大学の町野さん。
じつは町野さんにはひょんなことから過去に一度弊社でプレゼンを見せてもらってお話などしたりして、発表を見るのは2回目。
講演は堂々としていて聴衆の反応も良く、前回よりずっとうまくできていたと思う。
数式をWebブラウザ上でもっと簡単に書くというテーマを考えている(家庭教師の教え子と写メールで解法のやり取りとかどうなのヨ、という例など)。
Wikipediaでの数式はTeXで一見綺麗だが単なるドットの集合体=画像化されており、数式としての意味がなく、検索もできない。
Suim(Sushiki Input Method)というブラウザ向けフレームワークを作成してみた。TeXコードあるいは辞書で決められた簡易名(sin、sekibunなど)を記入することで、JavaScriptがMathMLに変換し、Firefox上で(テキスト文字として扱える)数式を表現できる。入力してスペースキーを押すことでFEP風に変換するという手段や、入力途中で候補補完表示を行うといった機能も作成している。
とはいえ、MathMLをネイティブにサポートしているのがFirefoxだけという現状が厳しい。
現在はこれらの実装はクライアントサイドのJavaScriptで実装しているが、将来的には辞書部分をサーバーサイドに持たせることを検討中。
また、TeXのセットアップが難しく、人によっても環境が異なるという問題点を挙げて、TeXをWebアプリケーション経由で利用し、ブラウザで記入した内容からPDFを返すという提案も行われた(これについてはほかの発表者ですでに実装した例などもいくつかあった)。
「高校教科書のオープンソース化 (TeXとウェブという視点から)」コンテンツアンドシステムズ、FTEXTの吉江さん。
オープンソースというかCCで出しています、だけど。
中学〜大学・予備校の教師や、プログラマー、大学生・高校生といった幅広い層で形成される「FTEXT」という教材開発プロジェクトで、学習教材制作にあたっている。
高校数学の教科書や、センター試験の解説速報(CCライセンスで提供)、演習問題データベースといったものをTeXベースで制作してきた。
コアメンバが執筆、サイトで意見収集、フィードバックを受けて修正というイテレーション。
フィードバックは現在Acrobatの注釈機能を使用しているが、TeXへの手戻しが悩ましい点。
FTEXTの教科書プロジェクトを推進していく上では、リーダーシップ、数学教育、リテラシーの3面を考える必要があるが、リーダーシップと数学教育の点では韓国の学生の協力を得て英語翻訳が進んでいる。リテラシーについてはできるだけTeX自体を知らなくても使えるような仕組みを構築。
質疑応答では著作権について。入試問題の著作権があいまいでグレー状態であり、本当は入試問題自体をCCライセンスにしてくれるとありがたい。数学以外では物理でやってみている人がいる。英語や国語は著作権がややこしい。歴史は歴史解釈を巡って別のややこしいことになる。数学はWebで見せるのが面倒な以外は、著作権についてはわりと軽めだそうだ。
「TEXとDITA」ネクストソリューションの中野さん。pTeX開発者。うぉー。
歴史をひもとき、国内においては1987年の日本語MicroTeX発売以来の流れを紹介。1990年に東京書籍印刷のpTeXst発売、縦組対応のpTeX 2.99 j1.6p1.0.9リリースとあってTeXによる商業出版の幕が開けた。1992年にpTeX 2.99 j1.7 p1.0.9Fリリース、インプレスが設立されてアスキーのTeX開発メンバがごっそりそっちに行ってしまったよ、という逸話。
日本語TeXの開発・保守においては、TeX最新版への対応を目標にしつつ、とにかく安定性を旨とした。昔の日本語TeXはたくさんのチェンジファイルとパッチの集合。
TeX2.99→TeX3.14での変化が大きかったため、pTeXで拡張していた部分を抽出して1つずつ3.14のチェンジファイルに埋め込んでいった。JIS/SJISなどはバリエーションとして対応。
チェンジファイルが複数あるのは文芸的プログラミングから外れるのでよろしくないが、tieコマンドが登場したことで複数のチェンジファイル+ウェブファイルを1つにまとめることができ、またチェンジファイルの集合も1つのチェンジファイルにできるようになった。
pTeXができたことで、pLaTeX2eや周辺ツールの整備も進んだ。
pLaTeX2eは当初6ヶ月おきのリリースとして積極的に日本語機能拡張を進めていった。
LaTeX2eも当初は開発が活発だったが2000年から鈍化。2000年12月が最後となっている。
2002年にpTeX 3.0をBSDライセンスでリリースし、2003年はpTeXやteTeXがバグフィクスリリースを次々と出すはめになってだいぶ混乱した。
サポートについてはユーザ/ディストリビュータの自主的なパッケージングやサポート、奥村さんのサイトやMLでの質問吸収のおかげでアスキーがわずらわされなくて済んでいる。感謝。
最近の興味方向としてDITA(Darwin Information Typing Architecture)を紹介。
IBMが開発、現在はOASISのトピックベースの文書アーキテクチャで、断片化されたひとかたまりの情報XML文書(トピック)を用途に応じて選択・組み合わせ(マップ)、HTML・PDF・ヘルプファイルなどを生成する。
トッピックは基本トピック(単純で書きやすい文書構造だが要素が不足して検索しづらい)、コンセプトトピック、タスクトピック、リファレンストピック、グロサリートピックという基本構造のほか、独自のカスタマイズトピック、たとえば「学習の進め方」や「シラバス」といったものも作ることができる。タグの名前が違っていても同じ意味を継承するといったことができる。
EWB(!)でDITA的なものを作る例を紹介。体裁、トピック文書、マップファイル、スタイルファイルやトリガという構成から、ドキュメントを生成する。
ちなみにewblibの中にascpsboxとwakuboxというパッケージがあり、これを使うとpLaTeX2eネイティブでページをまたぐ枠を作れる。
質疑では今後の開発についていろいろと。中野さん自身はTeXにはあまりもうリソースを割けず、土村さんや角藤さんらの活躍に期待という模様。
ここでお昼タイムへ。後半に続く。
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