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KeN's GNU/Linux Diary


2018年04月29日

_ [computer] 校正用にソニーのデジタルペーパー(DPT-RP1)を買ってみた

私の本業は技術系書籍の編集・組版で、かつオフィスでも家でもと場所を選ばずの勤務体系なのだが、そこについて回るのが紙の問題である。

編集としては電子データの時点でなるべく最初に入念に完成度の高いものにすることを主義にしているとはいえ、出力紙で見るほうが細かなミスに気付きやすいのは確かだ。また、組版分野でも、たとえばTeX組版の要素間のアキの一貫性を確認する、という作業をPC画面に定規を当てて調べるのはたいへん辛い気持ちになる。

最近編集的にも組版的にもちょっと厄介なものを抱えてしまっているので、いい加減その改善に乗り出すことに決めた。1,000ページの出力を持って通勤往復したくないという切実な願いである。

で、以前にラムダノートの高尾さんが遊びにきたときに、大きなタブレットでの操作を見せてもらったのを思い出した。当日に製品の名前をお聞きしていたのにアルコールで飛んだようで、なぜか「iPadのでっかいやつ」だと思い込んでいた。iPad 12.9インチを通販予約したところでやはりラムダノートの鹿野さんから「SONYのDPT-RP1では?」というツッコミをいただき、すんでのところでiPadをキャンセルしてSONY DPT-RP1の購入のほうに切り替えた(助かりました……)。

SONYデジタルペーパー (DPT-RP1) https://www.sony.jp/digital-paper/products/DPT-RP1/

「法人向け」とあるとおり、いろいろやる気がないページだ。 Amazonでも売られてはいるが、値段やサポートを考えるとソニー直のほうがいいみたい。

購入のときにも会社名を入れないと進めない。しょうがないので「個人」など適当に入れておく。GW明けかなぁとのんびりしていたら毎日発送しているようで、27日夜の注文で今日にもう届いた。ちなみにソニーの普通のアカウントのほうで購入製品登録をしようとすると「そんな商品しらんがな」と言われる。別の法人専用の登録が必要で、連携もないようだ。

本体はA4より一回り大きなサイズ。でもかなり軽い。薄い雑誌1冊ぶんくらい(サイズは違うけれども、重さ的には『Software Design』くらい?)。

画面は液晶や有機ではなく、e-ink。Kindle Paperwhiteをばかでかくした感じだが、書き換えはかなり速い。絵を本格的に描いたりするにはさすがに向かないけれども、普通の校正チェックや軽く記入するくらいならまったく問題ない。くっきりしていてかつ目に優しいのはかなり嬉しい。モノクロという制約はあるが、カラーで見なければいけないなら画面や出力紙で確認するし。

ただし発光しないので、暗いところでは読めない。カメラで状況を撮影するにも暗いしピント合わせずらいし難しい……。 photo

画面以外の匡体部分は「これでこの値段なの……」という安っぽさが否めない。軽いけど。

入れられるデータはPDFのみ、1ファイル1GBまで、というとても割り切った仕様。Windowsかmacにアプリケーションを入れて親機にし、デバイスとペアリングしてPDFを同期する。

操作は指でのタッチ、記入は電子ペン、と役割分担されている。電子ペンは充電式(USBmicro)になっていて、最初は充電からっぽだったためにしばらく何もできなかった。最初にキャリブレーションがあり、ペンの持ち方に合わせることができる。ペンで書く感触は少し出の悪いボールペンに近い。これは悪筆&力加減がヘボいという個人の問題によるところがありそう。 ペンの持ち手にあるボタンで消しゴムに切り替えてさくさく消し直せるのはとても便利。これは紙仕事でもほしいぞ。PDFの文字情報に基づくハイライトもかけられる。 書き込んだ内容はPDFに赤または青のフリーハンド情報として保存される。 ペン先は消耗品でわりとすぐヘタりそうなので、予備を追加注文することにした。

さすが高尾さんが誉めるだけあって、校正デバイスとしては優秀なのでは?という予感がしている。

ただ、実際ちょっと使ってみると難点はいくつかある。

まず、ビジネス用途でセキュリティを固くしている都合で、ペアリングしたPC以外とデータをやりとりできない。WiFiやBluetoothといったワイヤレス経由にはできるが、ペアリングPCを常に起こしておいてアプリケーションも起動しておかないといけない。PCのアプリケーションがコンシューマ向けにありがちな無駄に使わない機能を詰めて重いといったことがないのが唯一救いではある。

私のメインのデスクトップ環境はDebian GNU/Linuxなので、Dropboxでmacと連携し、macはそのDropboxフォルダをDPT-RP1と同期するようにし……といういくぶん迂遠なやり方になってしまう(そういえば、SierraのDropboxがサスペンドから復帰したときに同期が全然されないのはなぜだろう? 一時停止→再開 をすれば同期される)。デバイスの組み込みOS次第だけれども、httpdかSMBかを開いて内部フォルダにアクセスする仕組みがほしいなと思った。

次に、デバイスのインターフェイスがちょっとわかりにくい。上部のハードウェアスイッチは押しにくい上に壊れやすそうだし、右上の隠れメニューは反応が悪いし、出てくる各メニューもいまいち使い勝手が良くない。 拡大縮小は数値やスライドバーではなくおおざっぱな囲み範囲の拡大しか指定できないし、ページの指定もスライドバーで「だいたい」の位置に移動するだけ。1,000ページ台の本を扱っているとだいぶ辛い。 左上のハンバーガーメニューに最近のファイル一覧だけでなくもうちょっと使える機能を入れてもよいのではと思うが、頻出度でこうしたということだろうか。

最後に、「PDFを(何らかの)ルールによって『画面全体に』配置する」という表示ロジックになっているようで、実寸表示できず、A4正寸のPDFを取り込んでも微妙に小さくなる。かと思えばInDesignから吐いたPDFのようにA5にトンボを付けたものはトンボぎりぎりまで拡大してしまう。

「要素間は何mm」というのを測りたかったのでこれは大問題。上記のとおり拡大縮小機能は大雑把かつ全ページ適用するようなものではなく、このデバイス自体で実寸表示する機能は持ち合わせていないということになる。ユーザー・製品登録の業種選択で「出版」がないのも、想定していなかった客層ということなのだろう。

オワッタ……。

なんてことはなく、もちろん予測の範疇だったので、なんとかする方法を考える。いろいろPDFを食わせてみて検証した結果、特段インテリジェントに余白をカットするようなイケてる(≒マジ迷惑)ことをしているのではなく、縦横アスペクト比を保てる範囲でアートボードサイズが収まるように拡縮しているだけのようだ。

つまり、原寸表示したいPDFをデバイス上で実寸になるように拡縮した上で、白紙のA4 PDFのセンターに貼り付ければよい。

さて、拡縮してPDFに貼り付けといえば、当然TeXでしょう、らしい。

参考:寺田さんの「PDF加工ツールとしてのTeX」( https://speakerdeck.com/doratex/pdfjia-gong-turutositefalsetexfalseshi-li-todezitarucai-dian-hefalsehuo-yong )

ということで作ってみた。sony-resize.rb https://gist.github.com/kmuto/5a3221577eb0d439d92167ce2da6e6f8

TeXとInDesignではトンボや余白の幅に違いがあり、計算から導くのは難しいので、実用するパターンに1対1で拡縮率を指定することにする。これにはpoppler-utilsのpdfinfoコマンドでpt単位の紙面サイズ情報を得ることにした。小数点以下を切り捨てているが、どうもたまにごくわずかに下位の値が異なるPDFもあるようなので、その揺らぎ対策である。

TeXのほうはごくシンプルで、pdfpagesパッケージのincludepdfコマンドで全ページに対してscaleの拡縮率で変形して空ページに配置していくだけ。pdflatexコマンドは日本語を解さないが、PDFを扱っているだけなら中身にタッチするわけではないのでこれで問題ない。

やることはシンプルだけれども、実際には拡縮率の決定は試行錯誤が必要だった。数値調整→コンパイル→Dropboxに置く→同期→定規で測る→数値調整、の繰り返し。Acrobatと違って、現在開いているファイルが同期で更新されたら開き直されるのは良かった。

特にTeXトンボのほうの拡縮率は、業務で使っているクラスファイルに依存したものなので、ほかのクラスファイルでは全然違う可能性がある。

ともあれ、これでワンコマンドでDPT-RP1での実寸表示PDFを作ることができて、だいぶ実用的な環境にはなったので、投資のもとを取れるようお仕事をがんばっていきたい。

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